レンガと外装タイル
煉瓦とタイル、それはどちらも土を使って作られ、建築材料として世界各地で古くから使われてきました。今回はその二つの建材の歴史や特徴についてお伝えします。
- ※この記事は「News Letter Vol.14」の内容を再編集したものです。
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レンガとタイル:名前の由来
明治期〜大正期におけるレンガと外装タイル
西洋建築の開化
煉瓦は、幕末から明治維新の頃に西洋建築とともに入ってきて普及しました。明治時代の煉瓦建築の代表例として、「旧日本銀行京都支店」「東京駅」「大阪市中央公会堂」「名古屋市市政資料館」などが挙げられます。いずれも赤煉瓦と白い花崗岩の洋風で壮麗なデザインです。
これらの建築では煉瓦の表面を美しく飾るために仕上げ用の薄い厚さの「化粧煉瓦」を使い、これが「外装タイル」の原形の一つになったと考えられています。赤煉瓦流行の背景には日本人最初の建築家の一人であった、辰野金吾が大きな影響を与えていました。
フランク・ロイド・ライト建築の衝撃
辰野の死後、建築界に大きな変革が訪れ、主要なビルディングの構造は煉瓦づくりから鉄筋コンクリートに転換。レンガの需要は急速に減っていきましたが、アメリカから来日したフランク・ロイド・ライトが新たな煉瓦建築の流れを作り出しました。斬新な芸術的建築の影響は絶大なもので、彼が「帝国ホテル旧本館」に強いこだわりを持って使用した黄色い「スクラッチ煉瓦(スダレ煉瓦)」は流行を生み出し、タイル化したスクラッチタイルや茶系統のタイルの製造は急増しました。
タイルの時代へ
関東大震災後の建築は、耐震性に優れた鉄骨鉄筋コンクリート造へと移行していきました。煉瓦調のタイルは、本物の煉瓦の良さをそのままに、軽量で施工にかかる時間や費用も大幅に抑えることができるため、多くの需要を生み、様々なバリエーションのタイルが全国で作られるようになりました。
現在では、煉瓦造りに見えるほとんどの建築物の外装はレンガよりも薄いタイルが張られています。
東京駅と深谷駅
日本一大きな煉瓦の建築物、東京駅
諸外国にも見劣りしない威風堂々としたデザインの東京駅は、日露戦争の勝利を背景に、大正3年12月に完成してから、今年で107歳を迎えます。
日本の煉瓦造りの建築の多くは大正12年の関東大震災で崩壊しましたが当駅はビクともせず、名所として親しまれてきました。昭和20年、東京を襲った大空襲で爆撃を受けた時も、懸命の消火活動で駅構内では一人の死傷者も出さず、翌々日には東京駅から5本の列車を走らせたといいます。
復元工事は計画から約10年かけて平成24年に完了しました。復元に当たっては、歴史を経た材質や姿こそが大切と言う理由から損傷の少なかった1・2階の赤レンガの外壁はそのまま保存されることになりました。
またレンガの施工においては、レンガの美しさをより際立たせる効果がある「覆輪目地」と呼ばれる日本独自の手法が用いられました。
東京駅にそっくり、深谷駅
一見、東京駅と思わせるこの駅舎は、埼玉県にあるJR深谷駅です。東京駅の赤レンガ駅舎をモチーフにしたデザインで、「ミニ東京駅」とも呼ばれています。
深谷市には、渋沢栄一が作った日本で最初の機械式レンガ工場「日本煉瓦製造株式会社」があり、そこで作られたレンガが東京駅・丸の内口駅舎建設時に使われたという繋がりから、深谷駅は東京駅を模して作られたそうです。ただし、この深谷駅舎自体はレンガ構造ではなく、コンクリート壁面の一面にレンガ風のタイルが使用されています。
外壁を「積む」から「張る」に
タイルはレンガと比べると費用や手間を抑えて、焼き物の質感を感じる外壁に仕上げることができますし、カラー・面状・張りパターンなども自由に楽しんでいただけます。タイルを外壁にする際のポイントやメリットなどをご紹介します。
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吸水率
レンガもタイルも粘土に砂や石灰を混ぜて成型し、高温の窯で焼き上げたものです。外壁に使用するなら、なるべく吸水率の低いものが理想です。タイルでは磁器質、せっ器質などが適しています。吸水率が低ければ低いほど凍害を起こしにくいといえますが、レンガの場合は吸水率があまりにも低すぎると硬い製品となり、加工の問題や輸送時や施工後に破損が生じやすいという問題があります。
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機能性
タイルは表面を施釉したり、面状加工することができます。表面を施釉することで、雨水の侵入を防いだり、防汚加工を施してセルフクリーニング機能を持たせることも可能です。また、レンガに比べて厚みの薄いタイルは軽量なので、躯体にかかる負担も軽減することができます。
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デザイン性
レンガに比べ、サイズのバリエーションの豊富なタイルなら、建築物のスケールに合わせたタイル選び、意匠性を考慮したテクスチャーや張りパターンなどデザインを自由に楽しむことができます。
よく使われる外壁タイル
外壁に使用されるサイズはレンガに由来した「二丁掛」や「小口平」「ボーダー」などが一般的です。また、50角タイルを2枚並べたサイズを基本にする「45二丁」はマンションの外壁などでよく見られますし、レンガを切断した「スライスレンガ」も手軽にレンガ積みを再現できるので人気があります。
まとめ
レンガとタイルの歴史について紐解いていくと、日本が西洋文化を取り入れ、制度や習慣が変化し発展した激動の時代を感じることができます。どちらも近代日本建築の発展には欠かせない存在でした。
現代の建築においても、意匠材として空間に彩りを与えてくれるレンガやタイルについて、皆さんも興味を持っていただけると嬉しいです。
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