タイルの歴史 西洋編
タイルの歴史はとても長く、古くは紀元前2700年前にまで遡ります。世界最古のタイルは、エジプトのピラミッド建設に使用され、以後、世界の情勢と共に、様々な進化を遂げてきました。今回は、そんなタイルの奥深い歴史を紐解いてみようと思います。
- ※この記事は「News Letter Vol.19」の内容を再編集したものです。
- ※News Letterのバックナンバーはこちら
古代のタイル (紀元前~5世紀頃)
-
紀元前2700年頃
ファイアンス・タイル
エジプト第3王朝 第2代ファラオのジェセル王が、サッカラに建設したピラミッドの内部通路壁面を飾った青いタイルが、最古の施釉タイルとされています。
これ以前は、ピラミッドなどの建設物を、日干しレンガや石材などを併用して造っていたため、今では殆ど残っていません。この時代から、完全に石材で造り出し、装飾は星などの模様が天井に描かれ、場所によっては青いタイルで水や空を表現している部屋もあります。
※ファイアンスとは、石英の粉を練り固めた胎土に、天然ソーダと酸化銅を混ぜて施釉したもの。
-
紀元前1250年頃
施釉レンガ
エラム王国時代に、エラム人が建設した神殿都市チョガ・ザンビールのジッグラト外面を覆う焼成レンガには、青緑色に施釉された痕跡が今も残ります。
-
紀元前575年頃
青い釉薬瓦
メソポタミア地方の古代都市バビロンに造られた、8番目の門のイシュタル門。青い釉薬瓦でバビロンの女神イシュタルと、霊獣ムシュフシュ、牛の一種オーロックス等が、浅浮き彫りで表現されています。
中世のタイル (5世紀~14世紀頃)
-
800年頃
錫釉薬 / トルコブルーラスター釉
イベリア半島にイスラーム後ウマイヤ朝が成立すると、イスラームの窯業技術とタイル技術が半島に伝わり、マラガにはタイル生産センターが置かれるようになりました。
イスラームによって、金銀器のような贅沢品の使用が禁止されると、人々はその代替品として、金属器を思わせるラスター彩陶器を作るようになりました。建築物には、ラスター彩の星型タイルに人や動植物などが描かれています。
-
1200年頃
象眼タイル / モザイクタイル
古代ギリシャ・ローマ時代、建築物の床装飾に大理石を細かく切って床面を装飾した「大理石モザイク」が発展し、その後、中世ヨーロッパでは、いわゆる「モザイクタイル」と「象眼(ぞうがん)タイル」の技術が発達。ライン川より西のイタリア・フランス・イギリスなどの各地の教会の床面に装飾されました。
なお「モザイク(Mosaics)」の言葉の由来は、ギリシャ神話の9人の女神を意味する「ムーサイ(Mousai)」とされています。
-
1200年頃
レリーフタイル
この頃、ライン川より東のドイツ・オーストリアでは、石膏型に粘土を入れて型抜きをする技法を用いた「レリーフタイル」が発達しました。
近世のタイル (15世紀~17世紀頃)
-
1400年頃
マジョリカタイル
イスラームの焼き物から影響を受け、スペインのイベリア半島で誕生した、鮮やかな色彩が特徴の「マジョリカタイル」は、タイルの歴史に大きな変化をもたらしました。
-
1400年頃
イズニックタイル
オスマン朝時代、窯業地イズニックで、中国・明代の青磁や染付の影響を受けて発展した「イズニックタイル」は、白地に下絵付けで文様を描き、その上から無色釉をかけて焼成したもの。
初期のイズニックタイルは、トルコブルーや緑色を使い、補色で紫や青色を用いていました。
-
1600年頃
藍彩タイル
オランダ共和国樹立前、1564年以降に独立戦争の戦禍を避けて、アントワープから移住してきた陶工たちによって、ミッデンブルク・ハールレム他で、マジョリカ風の陶器やタイルが盛んに製造されました。
近代のタイル (17世紀~19世紀頃)
-
1709年
マイセン窯
東洋からもたらされた白磁に憧れを抱いたヨーロッパの人々は、ザクセン・フォークラント地方のアウエ鉱山のカオリンを原料とした白磁の開発に成功し、これにより西洋磁器の歴史の幕が開けました。
-
1756年
イングリッシュ・デルフト・タイル
イギリスのリヴァプールで、ジョン・サドラーとガイ・グリーンにより、銅版転写によるタイル絵付け法が開発されました。これにより、6時間で1200枚のタイルに絵をプリントすることが可能となり、絵付けタイルが安価に供給されるようになりました。
-
1800年頃
ヴィクトリアン・タイル
イギリスのヴィクトリア朝時代にゴシック式装飾が流行し始めると、中世風の泥漿(でいしょう)象眼タイルを求める声が多く挙がり、さっそく開発に乗り出しました。
1828年にハーバード・ミントンが象眼タイルの開発を始め、サミュエル・ライトが考案した「エンコースティック・タイル」の特許のシェアを買い取る形でミントン・タイルの開発・生産に成功しました。
この他、同時代に作られた多種多様なタイルをまとめて「ヴィクトリアン・タイル」といいます。
※ エンコースティック・タイル:泥漿焼付けタイルを、湿式製法により機械的に生産する方法
-
1841年
イギリスでリチャード・プロッサー(ミントン社)が、乾式製法によるタイル製造法の特許を得る。
-
1851年
ロンドン万博で、レオン・アルヌー(ミントン社美術主任)が開発したマヨルカ釉を発表。この釉は、型押しレリーフ・タイルに最適で、表面仕上げに広く使われるようになった。
現代のタイル (20世紀~)
-
2001年
大判タイル
イタリアのラミナム社が設立され、2000年代初期には、大型で超薄型のセラミックタイルを開発・製造し、特許を取得。高度な技術を用いて製造されたタイルは、キズや化学薬品などにも強く、床や壁といった従来通りの用途のほか、家具等の新たな分野でも使用可能な、革新的なタイルとなりました。
21世紀以降…
鉛や亜鉛など、美しいが人体に有害だと懸念される釉薬原料の使用が禁止される一方で、環境に配慮された原料やリサイクル技術の開発、焼成の見直しなどが盛んに進められ、タイルの歴史に変革を起こしつつあります。
まとめ
いかがでしたか? タイルは、人類文明の黎明期から人々の身近にあり続け、科学や文化の発展とともに紆余曲折を経て、現在に至っていることが分かりました。これまでのタイルの歴史を学ぶと、今後のタイルの歴史がどうなるのかも、興味が湧いてきますね。
次回は「タイルの歴史 中国・日本編」となります。乞うご期待!
■ブログアンケート
*印は、入力必須です。